社会責任が持てる環境が必要
2004年6月 建築ジャーナル誌No1066 アンケートより |
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Q1 朱鷺メッセ連結デッキ崩落事故、六本木ヒルズ自動回転ドア死亡事故など
最近多発する建築の事故について、建築設計者としてどう考えますか。 |
今回の2件の事故は建設者として他人事とは思えない。私も千葉県内に34mスパンの病院連絡通路を道路上空に設計し、北風対策として大型回転自動扉を2ヵ所の病院に3基設計している。回転扉の事故がテレビで報じられた日に2基設置した病院の責任者より「うちのは大丈夫か」と問合わせがあり、「事故機とは機種・メーカーが違います。世界で2、000ヵ所以上使用されている安全性の高い機種ですが、子どものいたずらなどがあると怖いので注意してお使い下さい」と回答した。先に1基設置した病院の責任者にも事故機とは違う旨の連絡をした。
私が大型回転扉を採用したのは、病院の設計に当たり建築主が北風対策のためにヨーロッパ旅行先のホテルで目にした大型回転扉の設置を希望された。海外で多く使用されている大型回転扉をアメリカやヨーロッパの空港やホテルで私も見ていたので合意したのが最初である。導入については実物の作動・制御・安全性等を私自身の身体で確認・納得した上で決定した。施工者は国内の実績が少ないことを理由に機種変更を申し出たが譲らなかった。設置工事中は物珍しさもあり、厚肉アルミ成形材、外周駆動モーター、制御モーター、安全センサーなどの部品を手に取ってみた。合理的な設計の考え方に感心するとともに、アルヴァ・アアルトを生んだ自然の厳しい北欧地域の人たちの智恵を感じた。
この扉は、1998年に設置以来6年経過したが、病院の正面入口として待合室の北風対策や省エネに貢献し障害者や高齢者に優しくゆっくりと回転している。その後2000年と2002年に設置した2基も病院の玄関で1日も休むことなく患者さんを迎え入れている。
今回の事故をテレビニュースで見た印象は、経済中心主義で護送船団方式の規制の多い島国日本を強く感じ、また、15年ほど前の車の安全策を思い出した。平成に入って間もなく車の世界で、輸出車と国内販売車の安全に対する仕様が違うことがテレビで報じられた結果、現在では国内でも安全性の高い車ができている。何かがないと変わらないこの国の制度は建築も例外ではない。
いずれにしても、設計者は自分自身の能力を高め納得のいく設計を心掛けることが大切であり、細心の注意を払って設計・監理を務めなければならないと再確認した。 |
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Q2 建築・都市の安全と建築家の責任について考えを述べてください。 |
初めて道路上空の建築を設計したときに、建築と都市の安全について考えさせられた。4車線幅員22mの公道上空15m位置に34mのスパンの病院間を結ぶ連絡通路を、地上で組み立て一夜で架ける計画をした。市民に計画の説明を行い関係機関と協議を重ね許認可をもらい、多くの事例を調査し、時間をかけて計画を練りデザインをした。工事中の安全はもとより、完成した後の地震、積雪、台風、雨、汚れ、景観、メンテナンスなど公道上の建築が長い時間の中で良好な状態に維持できるか、私の生命が終わっても道路上空に存在し、いつかは誰かの手により解体される。そう思うと建築家として責任を負えることはただ1つ、自身の能力を高め与えられた時間・予算の中で今できることをしっかりとやるのみであると考えた。
安全な建築や都市をつくる上で大切なことは、社会に対して責任の持てる建築家を選定し、市民から信頼され責任を持って仕事ができる環境をつくることである。社会が複雑になり組織が拡大すると個人の顔がかすんでくるが、市民から見て設計監理の責任を持つ建築家の顔が見え、お互いに緊張感のある関係の中で建築や都市を考えたい。また、建築家は自らの社会的な責任を十分理解しなくてはならない。
一方、都市を構成する主要な施設である公共建築おける設計入札で金額が低いことを理由に選ばれた設計者が、金額に見合った仕事と責任を負えばよいと考えるのは設計入札制度がある限り責められない。設計入札に代わる市民・建築家双方に好ましい設計者選定方法を早く採用し建築家が責任を持って安全な建築・都市づくりに参加できる環境づくりが必要である。
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