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都市を造る建築家の存在感
Bulletin 2002年12月号掲載
UIAベルリン大会
宇野 武夫
 
 ベルリンの壁の崩壊は1989年で私の事務所設立と同年である。戦後生まれの私は敗戦により分断された
ベルリンを訪問したいと機会を待っていた。今回UIAベルリン2002世界大会参加は大変ありがたい。
3回目のドイツ訪問であるが、初めてのベルリンをみることが私の目的である。
 プラハ・コースはチェコの世界文化遺産で百塔の街と呼ばれるプラハを訪問。バスで国境を超えて旧東独の
古都ドレスデンを経由して、ベルリンのUIA世界大会開会式に参加後、ベルリン市内自由視察である。
 
 文化と天才を生む盆地−プラハ
(写真1)
 到着した日の夕方、旧市街地広場にある聖ミクラーシュ教会での
コンサートを聴いた。正面祭壇前で演奏しているバロック建築。
さすが、ドボルザーク、スメタナを生み、モーツアルトにゆかりのある
プラハであると感心した。音楽・彫刻・絵画・建築が一体となり充実した
時間空間を作りだしているプラハ最初の夜であった。
次は、アールヌーヴォー建築の市民会館である。外・内部に華麗な装飾が
あり、世紀末のウィーンを思い出す建築である。プラハの春音楽祭会場の
スメタナ・ホールは残念ながら見学できず、地下の小ホールで
2晩コンサートを聴き、カフェでビールを飲んだ。ボヘミア盆地にある
プラハは、ウィーン、ザルツブルグ、ドレスデンの3都市間にあり、
各都市には200kmほどの距離で、ボヘミア・グラスやドレスデン近くに
あるマイセンの陶磁器などが有名である。細い曲がりくねった山道を
国境に向かうバスに揺られながら熟した文化と天才を生む盆地を感じた。

プラハ市民会館 外観
写真1−プラハ市民会館 外観

 
 新生ドイツの魅力ある古都−ドレスデン
(写真2)

ドレスデン
写真2−ドレスデン 
修復中の現場

 ドレスデンはエルベ川の流域にある美しい街で、終戦間際に米兵軍の
空爆により破壊され数十万人の死者が出た。戦後市民の努力により
歴史的建造物の復元が進み、現在は新生ドイツの魅力ある古都である。
第二次世界大戦で破壊され、壁の漆喰の中に煉瓦が見え、がれきの残る
修復中の現場をみた。脇には修復を終えた綺麗な塔が建つ。復元された
なかに長い壁画絵巻物・君主の行列がある。マイセンタイルで描かれた
100mほどの大壁画で、4月に見たアンコールワットの彫彫刻を
思い出した。権力者のやることはどこでも似ているが、不思議と時間が
経過すると文化財になる。
 ブリュールのテラスよりみるエルベ川の風景は美しく、3週間後に起きた
150年ぶりの大洪水が夢のような川の風景である。オペラハウスは再建
とは思えない建築である。隣にあるツヴィンガー宮殿中庭の池の縁に腰を
掛け、独バロック建築の美しさに見とれ、写真を撮ることを忘れてしまった。
時間がなく残念ながら美術館、博物館見学は出来なかった。

 
 新しいユーロ圏の中心的な都市−ベルリン
(写真3)
 UIAの会場は、大変大きな会場である。ホテルで着替えてバスで会場に
向かい前夜祭に参加。翌朝、地下鉄で会場に行き、開会式に参加した。
前回の中国とは異なるドイツらしい雰囲気であった。

 ・ベルガモン博物館
 
水路にかけられた小さな橋を渡り数段の階段を上り入館すると、
正面中央に大理石の階段があり、左右にギリシャ彫刻のある神殿遺跡の
模型が展示されている。ホールや階段は大勢の見学者で溢れていた。
左手の展示室で、人体彫刻と大きな壷を見た。シルクロ−ド西側の
スタート地点イスタンブールのボスポラス海峡を見下ろす高台にある
トプカプ宮殿の宝物や、敦煌、西安歴史博物館、故宮博物館、
正倉院宝物展など、シルクロードの宝物に見られる東西文化交流が
思い出されとても良い時間であった。本物を原寸で展示した博物館で、
スミソンアン博物館(ワシントン)にならぶよい博物館である。

UIA大会
写真3−UIA大会 前夜祭会場風景

 
 
・ユダヤ博物(写真4)

ユダヤ博物館内部展示室風景
写真4−
ユダヤ博物館内部展示室風景

 複雑で難解な建築であるが、サインが上手で見学はわかりやすい。
細長い傾斜した地下廊下、斜めに射し込む光が変化に富んだ内部空間、
屋外展示場の傾斜した床と斜めに立つコンクリートの柱群の間から
見える空など、平衡感覚を失う異次元の空間(世界)を感じる印象深い
建築。広島の原爆資料館を思い出す資料展示である。

 
 
・TV塔(写真5)
 高いところが好きな私は、多少不安を感じながら東独時代に造られた
RC造のベルリン一高いTV塔に上る。展望室から見たベルリン市内は
他に高い建物がなく見晴らしがよい。工事中のブランデンブルグ門より
東西にのびる大通りが明快な都市軸を形成している。
前方の大きな緑の中に戦勝記念塔見える。右手に大統領官邸、
大きな国旗のはためく国会議事堂、政府機関の建築群。左手に
ポツダム広場の再開発、眼下には昨日見たベルガモン博物館が見える。
上階の回転展望レストランでビールを飲みながら昨日歩いた壁の位置と
旧東西のベルリン市街を見た。東独時代の建築や都市空間を再生する
には、多くの時間と資金が必要であると感た。1992年に統一後の
経済苦によるストライキをフランクフルトで経験した。交通がマヒし最後の
ルフトハンザ―で一人帰国したことが印象深いが、今回見たベルリンは
新しいユーロ圏の中心的な都市づくりに向け輝いていた。

TV塔よりブランデンブルグ門方面を見る
写真5−TV塔よりブランデンブルグ門方面を見る

 
 今回、3都市を訪問して感じたことは基本的な事柄を大切にしながら、魅力ある都市デザインがされていることである。
秩序・新旧対比・新技術・歴史・時間・文化・環境・省エネ・外断熱・自然・共生・ヒューマンスケール・民主主義・民族の誇り
等の言葉が、街をふらふらと歩いている私の脳に浮かんだ。
 特に、長い時間のなかで、社会の要求に応え、美しい都市を造る建築家の存在を強く感じた旅であった。

<(株)UCA・都市・建築設計事務所主宰>

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